どのように海賊は船長であることが手に入れた
ONE PIECE 〜双子の物語〜 - 双子と大岩
今から二十年前の良く晴れた日、ガイモンの乗っていた海賊船はこの島へとやって来た。
とある経由で船長が手に入れた地図に、島で眠りにつく財宝のことが記されていたのである。煌びやかな金銀財宝を求め、彼等は島中を見て回った。
けれど。
『この島はもう探すだけ無駄だな!』
上陸から三週間後、仲間達全員を集めて船長はそう言った。
両手を軽く広げたポーズ付きで、忌ま忌ましさを存分にアピールして。
『総勢二百人でこれだけ探し続けて、見付かったのはコイツだけ! この壊れた空の宝箱が一つだけだ!!』
ガン、と足下に置いてあった大きくはない箱を蹴りつける船長。この時、箱が横へと僅かに滑って移動しただけで、倒れはしなかったということが後のガイモンの喜劇のような悲劇と不幸に繋がるのだが、まぁ取り敢えず今は置いておいて良い話だろう。
海賊船の船長は野郎共と呼び掛けて、船へと引き上げるよう命令を出す。宝を見付けられなかったのが余程悔しかったらしく、男達の先頭をズンズンと大股で進んでいった。
しかし、若かりし頃のガイモンには気になることが…。それを確かめてみたくて、足を動かす気になれない。
『おい、何してるガイモン』
『先に行くぜ?』
特別に仲良しというわけでもないが、それでも他のヤツ等よりは喋っていたかなと言う数人が訝しげに声を掛けてくる。
けれど、やはり。ガイモンは中々船に戻る気にはなれなくて。仕方がないので生返事と共に「後で追いつくから」と言って、彼等には足を進めて貰った。
ガイモンの疑惑の的になっているのは、一つの大岩であった。
この三週間、そこにはずっと船長が座り込んでいた。果たして、あの上は誰か探してみたのだろうか。いや、探してなどいないはずだ。島中を探せという命令を受けているのに船長の近くでゴソゴソとしていては怒鳴られてしまう。
「あの時のおれはまだ若かったからな。若い海賊ってのは好奇心の塊みたいなヤツばかりだ。一度でも考えたことは、どうしても確かめたくなっちまう」
六、七メートルはあろうかという大岩の高さ。けれど宝を見付けられるかもしれないという期待感と天秤に掛ければ、その時ばかりは大した数字ではないように感じた。
ゴツゴツとしている岩肌なのに何故だか少ない出っ張った部分に両手両足をなんとか引っ掛け、ヨイショヨイショと上っていく。
その当時は身長もなく体型もヒョロヒョロとしていたが、それでも海賊、馬鹿にばかりする事なかれ。それは若干の差なれど、そこら辺の常人と比べれば確実に早く、ガイモンは大岩のてっぺんに手を掛けた。
そして、見たのだ。いかにも宝が詰まっていますという見た目で無造作な置かれ方をした、数個の箱を。
今でも眼に焼き付いている。例え忘れようと思ったって、忘れられるはずがない。未練がある、諦められない。あの輝かんばかりの宝箱を、夢が溢れているはずの五つの箱を、手に入れたくて仕方がない。
「で、どうして箱にハマっちゃったの?」
興奮気味になってきたガイモンを止めるようにラファが尋ねる。手に入れてもいない宝の惚気話をして、何が楽しいのだろうかという眼である。
少なくともラファは、その宝についての話を聞くことに興味はなかった。
ガイモンはそんな彼に一瞬だけ頭を冷やす。
「あ、あぁ…そうだったな。おれは宝を見付けて、仲間を呼ぼうとしたんだ」
彼はニックネームを得た方法ウォルター·ペイトン"甘さ" 早く知らせて自慢をしたかった。当然だろう、誰も探し出せなかった宝を簡単に発見してしまったのだから、ガイモンは大手柄だ。
今まで大して目立ったところのなかったガイモンは上がったテンションも冷めやらぬまま浜の方角へと振り返った。――それは、おーいと声を上げた瞬間のことだった。
ガラリ、と。嫌味なほど軽快な音を立て、ガイモンが右手をかけていた場所が崩れる。そのまま身体は下へと体勢を崩し、その衝撃に耐えられなかった左手も簡単に岩から離れた。後は簡単、もう真っ逆さまへと落下していくだけである。
そして岩の下には、船長が蹴りつけていた古い宝箱が口を開けて待っていた。
ガポッと。それはそれは陽気な音を上げ、ガイモンは体育座りをするような体勢で箱にハマってしまった。その時に受けたショックに耐えきれなかったらしく、若かりし頃の彼はそのまま気を失った。
それから一時間ほど寝ていたガイモン。太い眉の下の細い眼を開けたときには、もう仲間達は船を出してしまっていた。
遠くの方にポツンと小さく、船の影は見える。見えるものの、ガイモンにはどうしようもなかった。
叫んで声が届くほど近くにいるわけでもないし、狼煙を上げることもできない。何故なら箱から出ているのは首から上と手首から先、足首から下だけであったのだから。
火を扱おうなんて考えたものなら、箱に引火してガイモンはあっという間に火達磨である。
気絶から立ち直った瞬間、彼は絶望した。
「それから暫くして、じゃぁあの財宝は全ておれ一人のものかって…ヤッタゼとかって喜んだ。だが、岩のすぐ下まで戻ってきたおれは、新たな絶望を知った…」
「うん、まぁ…普通に上れないよね」
そう。仲間を求めて行っていた海岸から帰ってみたのは良いものの、箱に詰まった状態でガイモンが岩の上に上れる道理がなかった。
『ぎぃやあぁぁぁああぁぁぁああぁあぁぁぁ! これじゃ上れねぇ!! その前に…抜けねぇ!! 抜けねぇぇ!!』
「……それから二十年間、誰も来なかったのか?」
誰も見ていないときには、どんな人です 不思議そうに尋ねるルフィ。
宝の地図が出回っている場所で、そんなに来にくいということもない。そんなに長い間、一人の上陸者もいないということは有り得ないだろう。
ガイモンは鬼気迫る顔で銃を取り出し、それを小さく撫で付けた。
「来たさ、幾度となく…!! 財宝狙いの海賊共がな…全て追い払ってやった…!! "森の裁き"でな!!」
「あぁ…ルフィを撃ったアレか…」
今までずっとボケーッとしていたゾロが納得したように頷く。
ラファに聞いてたんだねとからかわれて、なのなぁと小さく顔を顰めていた。
「あの時確かに、おれは財宝を見た…っ。大岩の上で眠り続けた財宝を…!! おれはこの二十年間、ずっと財宝を守り続けてきた!! あれはおれのだ!!」
血管が切れてしまうのではないかというくらい声を張り上げるガイモン。
その理論はまるで子供の駄々と変わらないものであったが、ラファはフッと苦笑して頷いた。
「そうだね。…いいんじゃない? どうせ、もうここを知る海賊もそんなにいないだろうし」
「二十年も守ってたんだ、そりゃオッサンのだ!!」
「まぁ、船長殿がいらねぇっつーんなら、奪ってく気もないしな」
「解ったわ!! 任せてガイモンさん!! その宝、貴方の代わりに取ってきてあげるっ!」
強気の顔でそれぞれに意見を言う四人。それに…特に最後のナミの言葉に、ガイモンは今まで俯け気味であった顔をパッとあげる。
「なに! 本当か!? 良かった!! お前達に話して本当に良かった!!」
しかしルフィには、少々気になったことがあったらしい。
僅かに眉を寄せ、胡乱げにナミへと尋ねた。
「……お前、海賊専門の泥棒だったよな。確か」
「馬鹿なこと言うな!! 私だって場くらい弁えるわよっ!!」
どっ、と。他の三人から笑いが巻き起こる。
それにルフィは不思議そうに首を傾げ、ナミは頬を染めながら不服そうに睨んできた。
「ふふ…笑ってゴメンね、ナミ。ガイモンさん、大岩のところまで案内してくれる?」
「ああ、勿論だ!」
「どのくらい大きいんだろうな!」
「七メートルくらいだって、さっきガイモンさんが言ってたでしょうが!!」
「ラファ、ずっと抱えてるけど…そいついつまで寝てんだよ」
「………うん、いつまでだろうね…」
「…? おい?」
「ふふふ、何でもないよ。早く行こう」
それから他愛もない話を続けながら、ラファ達はガイモンに続いて歩いて行った。
* * *
「ここがそうだ。おれも久しぶりだ、ここへ来るのは…」
嬉しそうなガイモンに苦笑して、それからラファはその大岩を見上げる。
話に聞くよりも、実際に見た方が随分と大きく感じる。当時のガイモンは、よくこんなものを上ろうと考えたものである。
「おっきぃねぇ~。この上に宝隠すとは、昔の人も考えたね」
感心している彼の横で、ナミはポンとルフィの肩を叩く。
「よし…行け」
「おいこら言い出しっぺ」
「おれが行くのかよ」
ゾロとルフィの二人に突っ込まれて、ナミは慌てたようにして身体を引く。
「私が上れるわけないでしょ、こんな大岩!!」
「あはは、ボクもめんど…難しいなぁ」
お役が回ってくる前にさり気なく断っておくラファ。気を抜いていた為に本音が少々出かけてしまったが、まぁ問題はないだろう。
そんな彼の眼の端に、とあるものが映った。
今から宝箱を取りにルフィが上ろうという大岩。その地面近くに、掘られた文字に。
「だ…駄目だ、ルフィ!!」
バシュッ。
ラファが声を掛けると同時に、ゴムの手を利用したルフィは地面から離れていた。
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