アリの家族
アリはミツバチやシロアリと同じように社会生活をする昆虫です.クロオオアリのように典型的なアリの家族は,1匹の女王アリと呼ばれる雌アリと数100匹の働きアリから構成されています.働きアリの数は種によって違いますが,少ない種では10匹(クビレハリアリ),多い種では数万匹(トビイロケアリ)から数10万匹(エゾアカヤマアリ)にもなります.世界にはもっとすごい数になるアリが知られていて,南米に住むグンタイアリは数100万から数1000万匹といわれています.
働きアリは遺伝学的には雌アリですが,栄養が十分に与えられないまま発育したために,体が小さく卵巣が発達しないため卵を産むことができません.働きアリの大きさは普通どれも同じくらい(単形)ですが,クロオオアリのように大きさに連続的なばらつきがある場合もあります.そんな場合は,大きめの個体を大型働きアリ,また小ぶりの個体を小型働きアリと呼ぶことがあります.また,アズマオオズアリのように種類によっては,大形働きアリと小形働きアリにはっきり分かれ(二形),大形働きアリの頭が特別に肥大化することがあります.このような大形働きアリは兵アリとよばれます.
成熟した巣では,春から夏にかけて羽(翅)のあるアリが育ちます.これらは次の世代を担う雄アリと雌アリです.羽アリは成虫になるとすぐに結婚飛行のために巣から飛び立つので,アリの社会では一時的なお客さんです.羽アリは普通春先に産まれた卵から育ち,梅雨明けから夏にかけて巣立ちますが,クロオオアリなどは,秋に産まれた卵から育ち,巣の中で冬を越して次の春5月頃に巣立ちます.雄アリは結婚飛行を終えるとすぐに死んでしまいます.一方雌アリは,結婚飛行を終えると地上に降りて翅を落とし,石の下など穴を掘り自分の体が入る程度の小部屋(巣)を作ります.巣作りを始めた雌アリを通常女王アリと呼びます.
アリの家族構成(カースト)
例1:クロオオアリ
女王アリ…………………………………… 1匹 働きアリ…………………………… 数100匹 大型働きアリ(10-12 mm) 小型働きアリ(7-9 mm) 羽アリ (雄アリ) (雌アリ)
例2:アズマオオズアリ
女王アリ…………………………………… 1匹 働きアリ…………………………… 数100匹 兵アリ(3.5mm)…………… 数10匹 小形働きアリ(2.5mm)… 数100匹 羽アリ (雄アリ) (雌アリ)
アリの家族の役割
成熟したアリの巣では,女王アリは卵を産むだけで何もしません.一方働きアリは,女王アリの卵からかえった幼虫を育てるために餌集めをしたり,手狭になった巣穴を大きくしたり,食べ物のかすを捨てるなどの雑用を引き受けます.また兵アリは,外敵から巣を守るためや大きな獲物を解体するために役立ちます.このようにアリの社会は,雌が中心になって仕事を分担しながら集団生活をしますが,女王アリ・(大形・小形))働きアリ・兵アリとそれぞれの仕事の役割に応じて体のつくりも変えています.このような形の分化をカーストとよんでいます.
例外的な家族構成のアリ
アリの中には,非常に変わった社会をつくるものもいます.例えば,アミメアリは行列を作るので有名ですが,働きアリだけが集団で生活していて,雄アリや雌アリ(女王アリ)がいません.働きアリは卵巣を持っていて,単為生殖といって結婚飛行なしに卵を産みます.生まれた幼虫は育つと再び働きアリになる不思議なアリです.
ヤドリウメマツアリという寄生性のアリが知られています.このアリは,ウメマツアリに寄生して生活するため普段は雌アリだけで働きアリがいません.社会性進化の一つの極限状態です。
普通のアリの巣には女王アリが1匹ですが,ヒメアリやエゾアカヤマアリでは,1つの巣にたくさんの女王アリが住んでいます(多雌性).これは結婚飛行に巣立った雌アリが再び元の巣にもどって一緒に生活するためです.普通のアリの巣は女王アリが死ぬと絶えてしまいますが,一つの巣に沢山の女王アリがいると,1匹の女王アリが死んでもその巣は絶えることがありません。こうして,エゾアカヤマアリでは1つの巣が数10年にわたって繁栄を続けます。多雌性はより高度なレベルに進化した社会体制と考えられています。今井弘民
アリの社会とヒトの社会
生き物の中には,トラのように1匹で生活する種類もいますが,たいていは群れを作って生活しています.弱い生き物ほど群れを作りやすいようです.1匹1匹では弱くても,群れることによって敵から身を守り餌を探すときにも有利になるからです.群れの中には,メダカのようにリーダーがはっきりしない群れもありますが,日本ザルのように腕力が強く統率力のあるボスに率いられた秩序のある群れも知られています.群れの中に秩序ができて,仕事の役割分担が確立したとき,群れは社会と呼ばれます.この意味で,アリもヒトも社会性動物です.しかし,それぞれの社会の仕組みは非常に違っています.
ヒトの社会は,世界の多くの国が民主主義社会を目指しています.そこでは個人の意志が尊重され,能力に応じて職業を選択する自由があり,同時に社会的弱者を保護する福祉制度があります.またヒトは道具を発明し,手足の延長として使います.そのためヒトは,職業によって風ぼうが変わることはありますが,男女ほとんど同じ体形をしています.
これに対してアリの社会は,雌アリを中心とした全体主義的社会を目指しています.そこでは個々のアリの意志よりも,種族の繁栄が優先されます.幼虫は大切に育てられますが,老人福祉はありません.成虫はそれぞれに定められた役割に従って命あるかぎり黙々と働きます.さらにアリはヒトと違って自分の体を道具として使います.このため雌アリは生まれたときは同じでも,その時々の社会のニーズと役割に応じて,産卵のためお腹が肥満した女王アリ・戦うための巨大な頭を持った兵アリ・雑用専用の貧弱で卵も産めない働きアリと体の形を作り変えてしまいます(アリの家族参照).今流行の言葉でいえば,形を決める遺伝子の発現を幼虫に与える栄養を調節して自在にコントロールできるのです.ただし同じアリでも,� ��アリは(結婚飛行で子孫を残すこと以外)アリの社会では無用の存在なので,いまだに先祖のハチに近い形のままです.
アリは,1億年前にすでに形態分化を伴った分業による高度な社会性を獲得し,数1000万年前にはキノコを栽培するハキリアリやアリマキを飼育してミツを採るトビイロケアリなどの農耕や牧畜をするアリが進化しています.ヒトはといえば,最初に地球上に現れたのは数100万年前ですが,長い間木の実を採り獲物を狩るその日暮らしが続きました.農耕が始まって文明と呼ばれる高度な社会が開花したのはわずか数1000年前のことです.日本では数100年前に将軍を頂点に武士・農民・職人・商人と生まれながらに身分が固定された封建社会が出現しましたが,それぞれの階級に固有の遺伝子は定着しませんでした.生物進化にとって数100年や数1000年という時間はあまりにも短すぎるのです.
最近遺伝子の仕組みが解読されたので,理屈の上では,アリのように子作り人間・戦闘人間・働き人間などを遺伝子操作で自由に作れる日が来るかもしれません.倫理問題が取りざたされているクローン人間などはその第1段階です.しかし,それはヒトの目指す理想の社会でしょうか?アリでは与えられた体形と役割に愚痴をこぼすことなく,命有るかぎり任務を遂行します.アリには感情や欲望や苦悩がないからです.「在りのまま無心に生きること」を始めて説いたのは古代インドの釈迦ですが,以来二千数百年,未だに煩悩の到達しえぬ理想の境地として語り継がれていることを考えると,アリ達が1億年も前に到達した社会がヒトの社会をはるかに超えた驚異的な社会であることがお分かりいただけると思います.今井弘民
< /blockquote> Q4.シロアリはアリではないのですか?
シロアリ
シロアリはアリではありません.ゴキブリやカマキリに近い昆虫です.分類学的には,アリはハチ目(膜翅目)に属しますが,シロアリはシロアリ目(等翅目)に分けられます.約4億年前の石炭紀にゴキブリの仲間から進化したと考えられています.主に熱帯圏を中心に7科2000種程知られており,日本には4科16種が生息しています.イエシロアリとヤマトシロアリが代表的な種で,共に家屋の木材を食べる害虫です.
シロアリとアリは,どちらも高度な社会性を発達させていますが,系統的には非常に離れた昆虫です.つまり2つの社会性は独立に進化したことになります.ですから表面的にはよく似ていますが,よく見ると色々な違いがあります.
まずアリは雌社会で女王アリ・兵アリ・働きアリは総て雌性ですが,シロアリは雌雄共同社会です.そこでは生殖階級と労働階級に社会的役割が分けられ,生殖階級には女王アリと王アリがいて,労働階級には雄と雌の兵アリと働きアリが分化しています.
もう1つアリとシロアリが違う点は,アリの幼虫はウジ虫形で手足がなく働きアリによって大切に育てられますが,シロアリは産まれるとすぐに働き手になります.これはアリが卵→幼虫→蛹→成虫と完全変態をするのに対して,シロアリは不完全変態で産まれたときすでに親と同じ形をしていて一人前に働くことができるためです.平たく言えば,アリの子供は過保護に育てられ,シロアリの子供は過酷に働かされるわけです.この点人の社会は,子供の労働が法律で禁止されており,教育ママのもとで過保護に育てられるので,アリ型社会に近いようです.
余談はさておき,シロアリの子供は過酷に働かされると言いうのは,少し誤解のある言い回しで,実際は働きながら成長して最後には翅のある雄と雌アリになり結婚飛行に参加します.つまりシロアリ社会は,全員が成長段階に応じて役割分担をするシステムを採用しているので,働きアリは生涯働きアリという差別的なアリ型の社会に比べて,結構民主的平等な社会と言えます.
今井弘民
参考文献:石川良輔(1996)昆虫の誕生 中公新書.
久保田政雄(1988) シロアリはゴキブリ、アリはハチの親戚
Q5.アリにそっくりなハチがいると聞きましたが?
アリに似たハチ
体長1-20 mmほどの小形の寄生ハチで,種類によっては翅が無くアリのように見えることからアリガタバチの名前が付けられた。世界で6亜科83属約1900種が記載されています。アリガタバチの雌は,毒腺が発達していて,鱗翅目や鞘翅目昆虫の幼虫を刺して麻酔したのち産卵をする習性があります。このため果樹害虫や森林害虫の天敵として有用昆虫ですが,家屋内に発生する種では自己防衛のために人を刺す場合も多く衛生害虫でもあります。日本では,人を刺すアリガタバチとしてシバンムシアリガタバチとホソアリガタバチの2種が有名です。
シバンムシアリガタバチ
雌の体長は2 mm。体色は黄色から黄褐色で頭は長方形(図1)。雌は常に無翅で,雄は有翅と無翅の2形が知られています。畳や乾燥植物質に発生するシバンムシ類の幼虫と蛹に寄生する。小さい体の割には、毒針による皮膚の炎症は激しく、刺されてから1-2日ほどたつと1-3 mmほど腫れ,かゆみが数日続きます。夜間に刺される場合が多く報告されています。かゆみを止めるためには、抗ヒスタミン系の軟膏を塗るのが効果的です。世界に広く分布し、日本では北海道から九州までの家屋内で発見され、野外ではほとんど見られません。
ホソアリガタバチ
メスは体長4 mmほどで無翅の個体が多い。頭と胸は褐色から暗褐色で腹部は暗褐色から黒色。触角は黄褐色(図2)。雄は常に有翅で体長2 mmほど。
カミキリムシ、タマムシ、シバンムシ類などの甲虫類の幼虫に寄生します。家屋内の柱や梁、あるいは家屋周辺の木材に甲虫類の幼虫がいた場合、それを寄主として発生する場合があります.夜間に刺されるケースが多く、特に眼を刺された眼障害患者がこれまでに複数名知られています。また、学校内で大発生し、集団皮膚炎を引き起こしたケースもあります。雌親は卵から幼虫がかえった後も幼虫の脇にいて、子を守る行動が観察されています。
日本、韓国、台湾、中国に広く分布し、日本では北海道、本州、四国、九州、小笠原諸島、南西諸島に生息します.寺山守
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本データベースに寄せられたメールの中に何件かアリガタバチの害がありましたので、ここに掲載しておきます。
Q5-1:突然のメールですが教えてください。築25年の鉄筋アパートの2階(4.5畳+6畳)に住んでいます。実は1カ月ほど前からアパートの部屋に蟻が出て困っています。蟻は小さく体長3 mm程度です。薄い赤色です。細身で、お尻がとんがっています。腹を立てると蜂のようにお尻を突きたててきます。いつも一匹ずつで、行列しません。夜寝ているとチクッとして布団の上を見ると蟻が1匹歩いています。ひどいと1晩で3匹くらいに刺されます。今まで捕まえた20匹のうち1匹には羽がついているように見えました。部屋の隅などを見ましたが、蟻の通り道はありませんでした。薬屋で売っているアリノスコロリを買ってきましたが、うちに出る蟻よりも、薬が大きいので効きませんでした。
何とか、退治できないでしょうか。
A5-1:手紙を拝見しました。
手紙にセロテープで貼り付けてあった標本を同定したところ,「アリガタバチ」でアリではありません!このハチは,寄生性で畳の中の虫などに寄生しているそうです。ですからアリノスコロリはまったくききません。スプレー式殺虫剤でそのつど殺すよりしかたがないかと思います。このハチは雌には羽がありませんが,雄には羽がついています。
Q5-2:体長2ミリ未満。尻の先に針があり、近くにいると臭いで存在が判る程臭く、刺されたり噛み付かれたりすると赤くなりとても痛がゆい。思わず潰すと体液が付いた場所がただれるヒメハリアリにも似ている気がするがちょっと違いとても困ってるので正体を知りたいです。 数匹捕まえたのを送っていいですか?その時まで生きているかは解りませんが見てほしいのです!
宜しくお願いします。
A5-2:標本受け取りました.
同定の結果,この虫はアリではなく,アリガタバチでした.多分ラワン材などを食害する甲虫に寄生しているハチと思われます.アリのように巣は造らず,寄生した甲虫の巣穴から一匹ずつ出てきます.アリ用の殺虫剤は効果がありませんが,一過性なので,出てきたらこまめに殺虫剤で殺して下さい.
Q5-3:我が家は築70年の古い木造建築ですが、最近我が家の台所の天井を褐色の小さい蟻がはっています。採ってみると異臭があります。からだはとても小さいのに臭いはきつい。貴サイトで調べてみましたが、見つけられません。異臭のある蟻として考えられるものがありましたらお教え下さい。
*写真掲載:写真に名前を載せる----素材提供:近藤 由紀
A5-3:送っていただいた虫の標本を同定しましたところ,アリガタバチの一種でした。この蜂は,木材を食べる甲虫の幼虫に寄生するそうです。強い臭いを出し,場合によっては人を刺しますが,一過性でしばらくすればいなくなります。
この蜂は幸い通常の噴霧式殺虫剤で退治することができます。
ユーザーからの返信:アリを同定していただきまして、ありがとうございます。アリではなくて、蜂なのですね!その名の通りアリとしか見えませんでした。
どうりで食べ物に寄りつかないわけです。駆除しやすいとのことで、ほっとしております。確かに刺すようで、チクッとした痛みで気づくとアリ(蜂)が体についており、その後しばらくその部分に痒みが残ります。一過性とのこと、確かにここ数日で数が減ってきたように思います。ただ寄生されている「木材を食べる甲虫の幼虫」は、家を食べているのでしょうか?今後はそちらの方を調べてみようと思います。
Q6.アリからキノコが生えるってほんとですか?
アリタケ(冬虫夏草)
冬虫夏草とは、動物(昆虫など)に寄生して、子実体(いわゆるキノコ、と言っても傘は作りません。棒状の物でいろんな形に変化します)を形成する菌類の1種です。中には動物以外(植物やツチダンゴ菌など)に寄生する種もあります。セミ、ハエ、カメムシ、トンボ、ハチ、アリなどの昆虫やクモ類、ダニ類などに寄生している物は比較的簡単に探すことができます。近くの山の谷川の付近やセミの良く発生する所を探してみてください。きっと、素晴らしい坪(冬虫夏草の発生地)を見つけることができるでしょう。いや発見出来たらうれしいなあ・・・。
ここではアリに寄生する物のみを取り上げます。
アリに生じる冬虫夏草はアシブトアリタケ(Cordyceps sp.)、アリタケ(C. japonensis)、アリヤドリタンポタケ(C. myrmecogena)、イトヒキミジンアリタケ(Cordyceps sp.)、クチキハスノミアリタケ(C. lloydii)、クビオレアリタケ(C. unilateralis var.clavata)、マルミアリタケ(Cordyceps formicarum)そのほか多種類が採集されています。それらの多くは、狭い坪(発生地)だけで見ることができるものであり、他の場所ではほとんど見ることはできないものです。しかし、イトヒキミジンアリタケは、調査の結果、四国の海岸地帯においてはあちこちで観察できることがわかりました。しかも、その着生形態と寄主の関係にはおもしろい関係があり、徳島県の南部、高知県、愛媛県南部ではチクシトゲアリに寄生し、着生場所は低木の葉の裏、シダの葉の裏であるのに対し、徳島県北部、香川県、愛媛県北部ではミカドオオアリに寄生し、着生場所は樹木の幹の下方であるということがわかりました(アリの同定は国立遺伝学研究所細胞遺伝学研究部門今井弘民先生、久保田政雄先生に、冬虫夏草の同定は清水大典先生にお願い� �た)。その結果、四国における、イトヒキミジンアリタケの発見は容易になりました。このイトヒキミジンアリタケは、朽ちず、年中観察できる種です。またマルミアリタケは落ち葉の中にいるミカドオオアリに寄生した冬虫夏草で、徳島県の眉山山麓の北面の全域で4月の中旬から6月の下旬まで確認することが出来ます。山麓から頂上に向かって、点々と広がる小さなマッシュルームの様な黄白色のマルミアリタケは自然の偉大さを思い知らせてくれます。
小さいアリに寄生する冬虫夏草ですので、探す場合はそこにしゃがみ込んで、時間をかけて、葉の一枚一枚、樹木の樹皮の割れ目の間まで詳しく見つめてください。木の中が朽ちて黒褐色になった部分にアリヤドリタンポタケを見つけることもあります。まずはじっくり、目を凝らして、観察を。
中国では,アリは医薬資源として利用されています(18薬用アリ参照)が,アリに寄生した冬虫夏草の効果については、現在の所不明なものの、何らかの効果が期待出来るのではないでしょうか。村上光太郎
関連サイト:久保田政雄(1988)アリの体から生えるキノコ「アリタケ」
Q7.アリの体はどのようになっているのですか?
アリの体
アリの先祖のハチの仲間は、ミツバチのように社会性を発達させた種類もいますが、多くは単独で生活しています。これに対してすべてのアリは雌アリを中心にして社会生活をしています。社会生活にともなって、仕事の分業が進み、卵を専門に産む女王アリ(雌アリ)と幼虫の世話や餌取り巣作りなどの雑用を引き受ける働きアリや外敵から巣を守る兵アリが分化しました(アリの家族参照)。ここでは学研の写真図鑑アリにある、クロオオアリの働きアリの体を中心に説明します。
アリは昆虫の仲間なので、体は頭と胸と腹に分かれています。頭には臭いをかぐための触角が2本、ヒトの手の役割をする大あご、物を見るための複眼2個と明暗を知る単眼が3個あります。また胸には3対6本の脚があります。雄アリと雌アリの胸には結婚飛行のための4枚の翅がついていますが、働きアリでは退化してありません。腹の先端には毒針のある種と退化してなくなった種がいます。毒針は、アリがハチから進化してきたことを示すなごりです。
頭部の器官
触角:臭いを嗅ぐ器官でヒトの鼻に相当します。ハチの触角はすらっと伸びた鞭状になっていますが、アリの触角は柄節といって根元が長く伸びている部分とその先端にある棍棒状の部分からできています。棍棒状の部分には臭いのセンサーが無数に埋め込まれています。これらを前後左右自由に動かして臭いをかぎます。この機能によって、ヒトが立体的に物を見るように、どの方角にどんな形の臭いの塊があるか臭いを立体的に感じることができると言われています。
複眼と単眼:アリは5つ目で、頭の側面に2個の複眼と頭頂部に3個の単眼を持っています。複眼は物を見るための目ですが、ヒトと違って小さな目(個眼)が何100も集まってできています。分解能は余りよくないと言われています。一方単眼は、光の明るさや偏光を検出する目で、主に雄アリと雌アリが結婚飛行の時に相手を見つけるときに使います。このため、結婚飛行をしない働きアリでは必要がなくなって、退化した種類もあります。
大あご:頭の先端に着いている一対の牙状の器官で、ピンセットのように餌や幼虫を運んだり、シャベルのように巣穴を掘ったりするときに使います。ヒトの手にあたる器官で、アリにとって大変重要な働きをします。獲物を挟んだら絶対に放さないトゲトゲのついたキバアリの大あごや群れの移動を護衛するマンモスのようなキバを持ったサスライアリの兵アリの大あごなど、アリの種類によっていろいろな形をしています。
胸部の器官
翅:アリは翅の無いハチと言われます。これはアリが地下生活をするようになって、結婚飛行の時以外は翅がいらなくなったためです。そのため働きアリでは翅が最初からありません。このため胸が退化して小さくなっています。また、雌アリは結婚飛行の後で、自分で翅をもぎ取ります。雄アリの翅はとれませんが、雄アリは結婚飛行の後ですぐに死んでしまいます。